COLUMN
Will・Can・Mustを、キャリア面談でどう使うか
監修:株式会社キャリアバランス

結論:Will・Can・Mustは、本人の希望、現在の強み、組織から求められる役割を分けて整理するキャリアのフレームワークです。キャリア面談では、3つをきれいに一致させることよりも、ずれている部分を対話し、次の経験・学習・役割を具体化することが重要です。
Will・Can・Mustとは
Will・Can・Mustとは、キャリアを考えるときに使われる代表的な整理方法です。Willは「やりたいこと・関心があること」、Canは「できること・強み・経験」、Mustは「会社や職場から求められていること」を指します。3つを分けて考えることで、本人の希望だけに寄りすぎず、会社都合だけにも寄りすぎない対話がしやすくなります。
| Will | 本人がやってみたいこと、関心がある領域、働くうえで大切にしたい価値観。 |
|---|---|
| Can | 現在できること、周囲から評価されている強み、これまでの経験で身についた力。 |
| Must | 職場で期待される役割、組織課題、職位や事業方針から求められる行動。 |
厚生労働省の令和6年度能力開発基本調査では、正社員に対してキャリアコンサルティングを行う仕組みがある事業所は49.4%(2025年公表)でした。※3 Will・Can・Mustは、面談の記入欄を増やすためではなく、限られた面談時間で本人の希望、現在の強み、組織からの期待を整理し、次の経験へ接続するために使います。
このフレームワークのよいところは、面談の話題を「将来どうしたい?」だけにしない点です。キャリアを考えることが苦手な人でも、CanやMustから話し始めると、Willの手がかりが見えてくることがあります。
キャリア面談での使い方
キャリア面談では、Will・Can・Mustを1枚のシートに書かせるだけでは不十分です。大切なのは、本人と上司がそれぞれの見え方を出し合い、「どこが重なっていて、どこがずれているか」を確認することです。
- Willが強いがCanが不足している場合は、経験機会や学習テーマを設計する
- CanはあるがWillが見えにくい場合は、過去の充実感や違和感から関心を探る
- Mustが強すぎる場合は、本人の納得感や中長期の成長につながる意味を言語化する
例えば、本人は「企画をやりたい」と話しているが、現在のCanは顧客対応や調整力にある場合、いきなり異動を約束するのではなく、既存業務の中で企画要素を増やす、会議設計を任せる、提案書作成に関わるといった小さな経験を作ることができます。

よくある失敗
Will・Can・Mustは便利なフレームワークですが、使い方を間違えると面談が硬くなります。特に多いのは、Willを「夢」や「明確な目標」として聞きすぎることです。本人がまだ言語化できていない段階で大きなWillを求めると、「特にありません」で止まりやすくなります。
- Willを大きな夢として聞きすぎる
- Canをスキル一覧の棚卸しだけで終える
- Mustを会社からの指示として一方的に伝える
- 面談後の経験機会に接続しない
Willは「今すぐ実現したいこと」だけでなく、「少し気になること」「苦ではないこと」「避けたいこと」からも見えてきます。Canは資格やスキル名だけでなく、周囲に安心感を与える、複雑な状況を整理できる、初対面の相手と関係を作れる、といった行動レベルで捉えると面談が深まります。
管理職が意識したい問い
管理職がWill・Can・Mustを使うときは、答えを引き出すよりも、本人が考えやすい問いを置くことが大切です。評価面談の延長で詰めるように聞くと、本人は正解を探してしまいます。キャリア面談では、探索を許す空気を作ることが必要です。
| Willを探る問い | 最近、少し前向きに取り組めた仕事は何ですか。逆に、違和感が残った仕事は何ですか。 |
|---|---|
| Canを探る問い | 周囲からよく頼まれること、自然にできていること、過去に評価された行動は何ですか。 |
| Mustを共有する問い | 今の組織で期待されている役割を、本人はどう受け止めていますか。納得しにくい点はどこですか。 |
| 次につなげる問い | 次の3か月で試せる小さな経験は何ですか。誰の支援があれば進めやすくなりますか。 |
対象者別の使い分け
Will・Can・Mustは、誰に対しても同じ聞き方をすればよいわけではありません。若手社員、管理職候補、女性管理職候補、ベテラン層では、本人が置かれている状況も、組織からの期待も異なります。面談の質を高めるには、対象者ごとに「何を深掘りするか」を変える必要があります。
| 若手社員 | Willを大きな夢として聞くより、入社後に面白いと感じた仕事、苦手意識が出た仕事、今後試したい経験を聞く。Canはまだ少なく見えやすいため、行動レベルの強みを拾う。 |
|---|---|
| 管理職候補 | プレイヤーとしてのCanと、マネジメントで求められるMustの違いを整理する。本人が管理職に何を不安に感じているかを扱うと、昇格前後の支援につながる。 |
| 女性管理職候補 | Willを本人の意欲だけで測らず、周囲の期待、ロールモデル不足、ライフイベントとの両立不安も含めて確認する。Mustの伝え方が一方的だと、登用の押し付けに見えることがある。 |
| ベテラン層 | 過去のCanを棚卸しするだけでなく、今後どのような貢献をしたいか、何を手放すか、次世代支援や専門性継承にどう関わるかを話す。 |
| リスキリング対象者 | Mustとして学習テーマを与えるだけではなく、本人のWillと既存のCanにどう接続するかを確認する。学んだ後に試せる仕事がないと、受講だけで終わりやすい。 |
特に人事施策として導入する場合は、「全員に同じシートを配る」よりも、対象者ごとの面談ガイドを用意した方が実務では使いやすくなります。管理職が自分の経験だけで面談すると、質問の粒度や深さにばらつきが出るためです。
面談シートに落とす方法
Will・Can・Mustを面談シートにする場合は、欄を3つ作るだけでは足りません。本人が事前に書き、上司が面談で問いを重ね、最後に「次の行動」へ落とす流れを作ることが大切です。シートは記入そのものが目的ではなく、対話を進めるための道具です。
| 事前記入 | 本人が最近の仕事、印象に残った経験、周囲から評価されたこと、今後気になるテーマを短く書く。 |
|---|---|
| 面談中 | 上司は正解を求めず、本人の言葉を広げる。Will・Can・Mustのどこが明確で、どこが曖昧かを一緒に確認する。 |
| 合意形成 | 本人の希望と職場の期待が重なる部分を探し、次の3か月で試せる経験や学習テーマを決める。 |
| フォロー | 次回面談で、行動できたか、期待とずれていないか、支援が足りているかを振り返る。 |
面談シートで避けたいのは、「Will欄が空欄だからキャリア意識が低い」と見なすことです。Willが言語化できない背景には、情報不足、経験不足、評価への不安、過去の失敗体験などがあります。空欄そのものを責めるのではなく、なぜ書きにくいのかを対話する方が、キャリア支援としては有効です。

組織施策への戻し方
Will・Can・Mustを使った面談は、個人の自己理解だけで終わらせると、組織施策としては弱くなります。複数の面談から見えてきた傾向を、個人が特定されない形で人事施策へ戻すことで、キャリア面談は配置・育成・研修・相談窓口の改善につながります。
- Willが見えにくい層が多い場合は、自己理解やキャリア棚卸しの研修を入れる
- Canの言語化が弱い場合は、上司からのフィードバックや強みの可視化を設計する
- Mustへの納得感が低い場合は、役割期待の伝え方や評価制度との接続を見直す
- 面談後の行動が止まる場合は、経験機会や小さな挑戦の作り方を管理職研修に入れる
社内キャリア相談室を設置している場合は、相談内容から見える傾向も合わせて確認できます。たとえば「管理職になる不安」「リスキリング後の活用不安」「ベテラン層の役割不明瞭さ」が複数部署で出ているなら、個人対応だけでなく、研修テーマや人事制度の見直しにもつなげられます。
外部専門家を入れるタイミング
Will・Can・Mustは社内だけでも使えますが、面談が評価や配置の話と近くなりすぎる場合は、外部専門家を入れる意味があります。本人が「この話を上司にしてよいのか」と迷っている状態では、Willが出にくくなります。特に、異動希望、管理職への不安、メンタル面の不調予防、ライフイベントとの両立、今後の役割への迷いは、社内面談だけでは扱いにくいことがあります。
| 社内面談で扱いやすいこと | 今の役割期待、次に任せたい仕事、上司から見た強み、職場内で試せる経験。 |
|---|---|
| 外部面談で扱いやすいこと | 評価を気にして話しにくい本音、異動や昇格への迷い、メンタル不調の予兆、家庭事情との両立不安。 |
| 併用するとよいこと | 外部面談で本人のWillや不安を整理し、本人同意の範囲で上司面談や人事施策につなげる。 |
外部専門家を入れる目的は、上司面談を置き換えることではありません。本人が安心して考えを整理できる場を作り、そのうえで上司との対話や職場での経験へ戻すことです。管理職研修と社外キャリア相談窓口を組み合わせると、個人の本音と組織の育成施策をつなげやすくなります。
社内導入の進め方
Will・Can・Mustを社内に導入する場合、最初から全社員に大きく展開するより、管理職研修やキャリア面談の一部として試す方が定着しやすくなります。フレームワークはシンプルですが、問いかけ方が浅いと「書類を埋めるだけ」になり、問いかけ方が強すぎると評価面談のように感じられます。
- 人事側で、Will・Can・Mustを使う目的を決める
- 管理職向けに、評価面談との違いと問いかけ方を研修する
- 対象部署や対象層を絞り、面談シートを試行する
- 面談後に、本人の行動計画と上司の支援内容を確認する
- 個人が特定されない形で、面談テーマの傾向を人事施策へ戻す
この順番で進めると、フレームワークが「人事から降りてきたシート」ではなく、上司と部下がキャリアを話すための共通言語になりやすくなります。特に最初の導入期は、管理職だけに任せず、人事や外部専門家が面談設計をサポートすることが重要です。
評価制度との距離をどう取るか
Will・Can・Mustをキャリア面談に使うとき、評価制度と完全に切り離すべきか、どこかで接続すべきかは悩みやすい論点です。結論から言えば、面談の場では評価と切り離し、面談後の経験設計や育成計画では接続する、という二段構えが現実的です。面談中に評価を意識させすぎると、本人はWillを出しにくくなります。一方で、面談後に仕事や学習機会へつながらなければ、話しただけで終わります。
| 面談中 | 本人の関心、強み、今の違和感、将来に向けた不安を安心して話せる場にします。評価コメントや説得は控えます。 |
|---|---|
| 面談後 | 本人が試したい経験、上司が任せたい役割、組織として必要な学習テーマを整理します。 |
| 育成計画 | Will・Can・Mustの重なりを、研修、OJT、1on1、異動・兼務、社内公募などに接続します。 |
この距離感を管理職が理解していないと、面談は「希望を聞いたが実現できない」で止まりがちです。本人の希望をすべて叶える必要はありませんが、希望の背景にある価値観や成長意欲を拾い、会社として提供できる経験と重ねることが、キャリア面談の実務上の価値になります。
言葉の選び方で面談の質が変わる
Will・Can・Mustは便利な言葉ですが、そのまま部下に投げるだけでは機能しないことがあります。「あなたのWillは何ですか」と聞かれても答えにくい人は多く、特に若手社員や管理職候補は、まだ自分の希望を言語化できていない場合があります。面談では、抽象語を具体的な問いに置き換えることが大切です。
- Willを聞くときは、「最近、もう少し関わってみたいと思った仕事はありますか」と聞く。
- Canを聞くときは、「周囲から任されやすい仕事、苦にならず続けられる仕事は何ですか」と聞く。
- Mustを伝えるときは、「会社として次に期待したい役割はここです」と具体的に伝える。
このように問いを分解すると、フレームワークが押しつけになりにくくなります。キャリア面談は、きれいな言葉を並べる場ではなく、本人が次に試せる一歩を見つける場です。
研修・相談室へのつなげ方
Will・Can・Mustは、個人の自己理解だけでなく、管理職の面談スキル向上や社内キャリア相談室の運用にも使えます。管理職がフレームワークを理解していると、部下の話を「希望」「強み」「役割期待」に分けて聴けるため、面談が単なる雑談や評価確認で終わりにくくなります。
よくある質問
Q. Will・Can・Mustとは何ですか?
Willは本人がやりたいこと、Canは現在できることや強み、Mustは組織や役割から求められることです。3つを重ねて整理すると、本人の希望だけでも会社の都合だけでもないキャリアの接点を見つけやすくなります。
Q. キャリア面談でWill・Can・Mustを使うメリットは何ですか?
本人の希望、強み、組織の期待を分けて話せるため、面談が評価や説得だけに偏りにくくなります。上司と部下が同じ地図を見ながら、次の経験や学習テーマを具体化できます。
Q. Willが出てこない社員にはどう対応すればよいですか?
いきなり将来像を聞くのではなく、過去にやりがいを感じた経験、苦にならず続けられた仕事、周囲から評価された行動を一緒に振り返ります。Willは大きな夢ではなく、関心や違和感から見つけても構いません。
Q. 管理職研修でWill・Can・Mustを扱う際の注意点はありますか?
管理職が部下に使う前に、自分自身のWill・Can・Mustを整理する機会を設けると効果的です。自分のキャリアを言語化した経験がないまま部下に問いかけると、質問が浅くなりやすいためです。研修では、問いかけの練習と振り返りをセットで組み込むことを推奨します。






