COLUMN
研修だけでなく、面談・経験付与・支援体制で育てる
監修:株式会社キャリアバランス

管理職候補の育成は、研修を受けてもらえば終わりではありません。候補者が管理職の役割を理解し、自分なりに挑戦できる経験を持ち、上司や人事から必要な支援を受けながら成長していく設計が必要です。特に近年は、管理職になりたくない、責任が重すぎる、部下育成に自信がない、ライフイベントとの両立が不安といった声も増えています。
- 管理職候補育成とは
- 次世代の管理職を選抜するだけでなく、本人のキャリア観、役割理解、マネジメント経験、上司からの支援、組織の期待を接続し、段階的に管理職としての力を育てる取り組みです。
なぜ候補者育成が難しいのか
管理職候補を増やしたい企業は多い一方で、候補者本人が管理職になることに前向きとは限りません。理由は一つではありません。長時間労働のイメージ、部下対応への不安、成果責任の重さ、管理職の魅力が見えないこと、家庭や介護との両立、ロールモデル不足などが重なります。これらを「意欲がない」とまとめてしまうと、支援の方向を誤ります。
管理職候補育成では、まず候補者が何に不安を感じているのかを言語化する必要があります。責任への不安なのか、経験不足なのか、組織の期待が見えないのか、上司の支援が足りないのか。原因によって打ち手は変わります。面談で丁寧に聞き、研修や経験付与につなげることが大切です。
JILPTの調査では、企業におけるキャリア支援の課題として、経営層・管理職層の意識、社風、施策の浸透、人材・予算・時間などが挙げられています。※2 管理職候補育成も同じで、候補者本人だけでなく、上司、人事、組織風土を含めて見る必要があります。

育成設計の基本
管理職候補育成は、選抜、研修、経験付与、面談、振り返りの流れで設計します。候補者を選んだだけでは育ちません。研修で学んだことを現場で試し、上司や人事が振り返りを支援する必要があります。特に、部下育成、目標設定、フィードバック、1on1、キャリア面談は、実際にやってみないと身につきにくい領域です。
| 段階 | 内容 | 注意点 |
|---|---|---|
| 候補者の見立て | 実績、周囲への影響力、学習意欲、役割理解を見る | 過去実績だけで選ばない |
| キャリア面談 | 本人の不安、希望、管理職観を整理する | 昇進を押し付ける場にしない |
| 管理職研修 | 面談スキル、部下育成、評価、チーム運営を学ぶ | 知識だけでなく演習を入れる |
| 経験付与 | 小さなリーダー経験、後輩育成、プロジェクト推進を任せる | 失敗時の支援と振り返りを用意する |
| 振り返り | 上司・人事・本人で次の経験を調整する | 一度の研修で完結させない |
面談で扱うテーマ
管理職候補との面談では、「管理職になりたいか」を単純に聞くだけでは不十分です。本人が管理職に何を期待し、何を不安に感じ、どの経験なら試せるのかを掘り下げます。Will・Can・Mustの観点で整理すると、本人の希望、現在の強み、組織から期待される役割が見えやすくなります。
たとえば、本人が「管理職は向いていない」と言う場合でも、詳しく聞くと「人を評価することが不安」「部下のメンタル不調にどう関わればよいかわからない」「家庭との両立が心配」「自分の専門性を失うのが怖い」など、別々の不安が出てきます。これらを同じ打ち手で扱うことはできません。
| 面談テーマ | 確認したい問い | つなげる支援 |
|---|---|---|
| 役割理解 | 管理職にどんなイメージを持っているか | 管理職の役割説明、先輩管理職との対話 |
| 不安の整理 | 何が一番不安か、何があれば試せそうか | 個別面談、メンター、段階的経験付与 |
| 強みの確認 | これまで周囲に良い影響を与えた経験は何か | リーダー経験、後輩育成、プロジェクト任命 |
| ライフとの両立 | 働き方や生活条件で懸念していることは何か | 業務配分、上司支援、両立支援制度 |
女性管理職候補への支援
女性管理職候補の育成では、本人の意欲だけを問題にしないことが重要です。管理職になりたいと思えない背景には、ロールモデル不足、周囲からの期待の伝え方、家庭との両立不安、職場風土、無意識の思い込み、経験付与の偏りがあることがあります。本人に「もっと前向きになってください」と言うだけでは、構造的な課題は変わりません。
女性活躍推進法のもとで、企業には女性の活躍状況の把握や課題分析、行動計画の策定が求められています。※3 管理職候補育成も、数値目標だけでなく、候補者が管理職として経験を積める機会、上司の推薦行動、職場の支援体制を見直す必要があります。
- 候補者本人の意欲だけに原因を置かない
- 管理職になる前の小さなマネジメント経験を用意する
- 上司が候補者に期待を伝える面談を設計する
- ロールモデルやメンターとの接点を作る
- ライフイベントとの両立不安を面談で扱えるようにする
経験付与の設計
管理職候補育成で最も重要なのは、研修で学んだ内容を試せる経験を用意することです。研修で部下育成やフィードバックを学んでも、現場で後輩育成を任されなければ身につきません。1on1の進め方を学んでも、上司から振り返りを受ける機会がなければ改善できません。
経験付与は、いきなり大きな責任を任せることではありません。小さなプロジェクトのリード、後輩の育成担当、会議ファシリテーション、業務改善提案、部署横断の調整役など、段階的に試せる経験を設計します。候補者本人が失敗を恐れすぎないよう、上司が事前に期待を伝え、途中で相談できる場を作ることが大切です。
| 経験の種類 | 育つ力 | フォロー方法 |
|---|---|---|
| 後輩育成 | 傾聴、フィードバック、成長支援 | 上司との振り返り、面談ロールプレイ |
| 小規模プロジェクト | 計画、調整、意思決定 | 途中相談、進行レビュー |
| 会議進行 | ファシリテーション、合意形成 | 事前設計と実施後レビュー |
| 部署横断の調整 | 関係構築、影響力、視野の拡張 | メンター支援、関係者フィードバック |
効果の見方
管理職候補育成の効果は、研修満足度だけでは判断できません。候補者がどの経験を積んだか、上司との面談が継続しているか、管理職への不安が具体化され支援につながっているか、実際に部下育成行動が増えたかを確認します。また、女性管理職候補であれば、候補者数、推薦数、経験付与の偏り、昇進意向の変化も見ます。
重要なのは、管理職候補を「昇進させる対象」としてだけ見るのではなく、本人のキャリア形成として支援することです。本人が納得感を持って役割に向き合えると、管理職になった後の部下支援や組織運営にも良い影響が出ます。逆に、本人の不安を扱わずに昇進だけを進めると、管理職になってから疲弊しやすくなります。
キャリアバランスで支援できること
キャリアバランスでは、管理職候補育成を、管理職研修、キャリア面談、女性活躍推進支援、上司向け面談研修を組み合わせて設計します。候補者本人の不安や価値観を整理し、上司がどのように期待を伝え、どの経験を任せるかまで一緒に考えます。
また、管理職候補の育成は、メンタルヘルス予防やエンゲージメント向上とも関係します。責任の重さだけが増え、支援がない状態では、候補者は管理職に前向きになれません。候補者が安心して相談できる場、上司が支援できる面談スキル、現場で試せる経験をセットで用意することが、次世代の管理職を育てる近道です。
候補者をどう見立てるか
管理職候補の選定では、現在の成果だけを見ると偏りが出ます。個人として高い成果を出している人が、必ずしも部下育成やチーム運営に強いとは限りません。一方で、周囲の相談に乗っている、後輩の成長を支えている、部署をまたいだ調整ができるなど、まだ評価指標に表れにくい強みを持つ人もいます。
候補者を見立てる際は、実績、周囲への影響力、学習姿勢、自己理解、他者理解、ストレス耐性、支援を求める力を複合的に見ます。特に、管理職候補本人が不安を言語化できるかは重要です。不安を持たない人が優れているわけではなく、不安を整理し、必要な支援を求めながら役割を学べる人の方が、管理職として成長しやすい場合があります。
| 観点 | 確認したいこと | 面談での問い |
|---|---|---|
| 成果 | 自分の仕事で成果を出しているか | 成果を出すために工夫したことは何か |
| 周囲への影響 | 後輩や同僚に良い影響を与えているか | 周囲から相談されることは何か |
| 役割理解 | 管理職に求められることを理解しているか | 管理職に対してどんなイメージを持っているか |
| 支援を求める力 | 一人で抱え込まず相談できるか | 困った時に誰に相談できそうか |
メンター・スポンサーの設計
管理職候補には、直属上司だけでなく、別の立場から支援するメンターやスポンサーが有効です。メンターは本人の悩みや学びを支援し、スポンサーは候補者に機会を与えたり、組織内で推薦したりする役割を担います。特に女性管理職候補や若手候補者では、直属上司だけに支援を任せると、経験付与の機会が限られることがあります。
メンター制度を設ける場合は、単に先輩社員を割り当てるだけでは不十分です。何を話す場なのか、守秘性をどう扱うのか、上司との関係をどう整理するのかを明確にします。スポンサーを置く場合は、候補者にどのような経験を任せるか、どの会議やプロジェクトに参加させるかを具体化します。
- 直属上司以外に相談できる相手を用意する
- 候補者が経験を積める場をスポンサーが作る
- メンター面談を愚痴の場だけにせず、次の行動へつなげる
- 女性管理職候補には、ロールモデル接点と経験付与をセットで設計する
- 人事が候補者の状態を定期的に振り返る
よくある失敗
管理職候補育成で多い失敗は、候補者を選抜した後に研修だけを実施し、現場での経験や上司の支援につなげないことです。研修で学んだ内容が現場で試されなければ、本人は「知識は得たが、管理職になれる実感はない」という状態になります。
- 過去実績だけで候補者を選び、部下育成や対話力を見ていない。
- 管理職になる不安を扱わず、昇進意向だけを確認している。
- 研修後に任せる経験がなく、学びが行動に変わらない。
- 女性候補者に対して「本人が手を挙げない」とだけ見て、周囲の期待や支援条件を確認していない。
- 上司が候補者に期待を伝える面談を行っていない。
こうした失敗を避けるには、管理職候補育成を人事施策として閉じず、現場の上司と一緒に運用する必要があります。候補者本人が何に挑戦し、上司がどのように支援し、人事がどのタイミングで振り返るかを決めることで、研修が実務につながります。
半年から1年で見る育成の流れ
管理職候補育成は、短期研修だけで完了するものではありません。半年から1年程度の期間で、面談、研修、経験、振り返りを繰り返す方が現実的です。初回面談で本人の不安や期待を整理し、研修で基礎を学び、小さなマネジメント経験を任せ、振り返りで次の課題を確認します。
この流れの中で、候補者が管理職になることに前向きになる場合もあれば、別の専門職としての貢献が見えてくる場合もあります。どちらも組織にとって重要な人材活用です。管理職候補育成の目的は、全員を無理に管理職にすることではなく、本人と組織の期待をすり合わせ、適切な役割と成長機会を設計することです。
候補者への伝え方
管理職候補に選ばれたことを伝える際は、「あなたを管理職にしたい」と一方的に伝えるだけでは不十分です。本人にとっては期待である一方、責任や働き方への不安も生まれます。まず、なぜ候補者として見ているのか、どの強みを評価しているのか、今後どの経験を積んでほしいのかを具体的に伝えることが重要です。
あわせて、管理職になるかどうかを今すぐ決める場ではなく、管理職に近い経験を試しながら考える期間であると説明すると、本人は受け止めやすくなります。候補者育成は、昇進を迫るプロセスではなく、本人のキャリア形成と組織の期待をすり合わせるプロセスです。
上司が期待を伝える面談を行い、人事が研修や相談機会を整え、必要に応じて外部のキャリアコンサルタントが本人の不安を整理する。この三者の役割分担があると、候補者は孤立せずに成長できます。
候補者育成では、本人の意思を尊重しながらも、組織として期待を曖昧にしないことが大切です。期待を伝え、試せる経験を渡し、振り返る機会をつくる。この積み重ねが、管理職になる前の不安を現実的な準備へ変えていきます。候補者本人の納得感も高まります。
よくある質問
Q. 管理職候補育成は研修だけで足りますか?
研修は重要ですが、それだけでは不十分です。候補者本人の不安を扱う面談、現場での経験付与、上司の支援、振り返りまでを設計する必要があります。
Q. 管理職になりたくない候補者にはどう関わればよいですか?
まず理由を分けて聞くことが重要です。責任への不安、家庭との両立、ロールモデル不足、マネジメント経験不足などで打ち手が変わります。
Q. 女性管理職候補の育成で注意することは?
本人の意欲だけに依存せず、周囲の期待、職場風土、両立支援、上司の推薦行動、経験付与の公平性を確認します。
Q. 1on1やキャリア面談は必要ですか?
必要です。候補者が何に不安を感じ、どんな経験なら試せるかを言語化することで、研修内容を現場で使える経験へ接続できます。
Q. 育成の効果はどう見ればよいですか?
研修満足度だけでなく、候補者の挑戦機会、上司との対話、昇進意向、実際に任せた役割、部下育成行動の変化を見ます。



