COLUMN
与えられた仕事の中に、本人が働きがいをつくる余地を設ける
監修:株式会社キャリアバランス

ジョブ・クラフティングとは、従業員が会社から与えられた役割をそのまま受け取るだけでなく、仕事の進め方、関わる相手、仕事の捉え方を主体的に調整し、自分なりの働きがいや手応えをつくる考え方です。配置転換や職務変更を待たなくても、現在の仕事の中で小さな工夫を始められる点に特徴があります。このページでは、ジョブ・クラフティングの意味、3つの方法、企業で導入するときの手順、管理職の役割、研修を実践につなげる方法、効果測定まで、人事担当者が制度や研修へ落とし込める順序で解説します。
- ジョブ・クラフティングとは
- 従業員が組織の目標や自分の責任を踏まえながら、仕事の範囲や進め方、周囲との関係、仕事に与える意味を小さく調整することです。好きな仕事だけを選ぶ制度ではなく、役割を果たしながら自分の強みと仕事の接点を増やす実践です。
ジョブ・クラフティングは、仕事を本人の側から捉え直す考え方です
仕事は、職務記述書や上司の指示だけで完全に決まるものではありません。同じ役割でも、どの順番で進めるか、誰に相談するか、顧客や他部署から何を学ぶか、仕事を何のために行うと捉えるかによって、本人が経験する仕事の質は変わります。ジョブ・クラフティングは、この日常的な調整に着目します。
概念を提唱したWrzesniewskiとDuttonは、従業員が仕事のタスク境界、関係的境界、認知的境界を変える行動としてジョブ・クラフティングを説明しました。※1 重要なのは、新しい職種へ移ることだけがキャリア形成ではないという点です。今の仕事をどう遂行し、誰と関わり、どのような意味を見いだすかも、本人の成長とキャリア自律に関係します。
一方で、ジョブ・クラフティングは個人の努力だけに責任を負わせる考え方ではありません。本人に工夫を求めても、手順変更が一切認められない、関係部署への相談ができない、上司が新しい提案を受け止めないという職場では実践できません。企業が導入する場合は、本人の主体性と、管理職が示す裁量範囲、心理的に相談できる関係、組織の安全・品質基準を一体で設計する必要があります。
厚生労働省の働きがいに関する支援資料でも、仕事の意味を見いだすための考え方としてジョブ・クラフティングが扱われています。※2 働きがいを福利厚生や評価制度だけで生み出そうとするのではなく、従業員が日々の仕事に働きかけられる余地をつくることが、現場での実感につながります。
3つの方法は、タスク・関係性・認知のクラフティングです
一つ目のタスク・クラフティングは、仕事の内容、順序、方法、時間の使い方を調整することです。たとえば、定例報告の集計を自動化して顧客への提案時間を増やす、会議前に論点を共有して意思決定を早める、苦手な作業を分解して得意な同僚から方法を学ぶといった工夫です。担当業務を勝手に減らすのではなく、成果や品質を高める方向で進め方を変えます。
二つ目の関係性クラフティングは、仕事で関わる相手や、関わり方を調整することです。自部署だけで完結していた業務について利用部門へヒアリングする、若手社員がベテラン社員へ相談する機会をつくる、顧客対応の背景を開発担当へ共有するなどが該当します。新しい関係が増えると、仕事の全体像や自分の貢献が見えやすくなります。
三つ目の認知的クラフティングは、仕事をどのような意味や目的で捉えるかを見直すことです。単なるデータ入力を「経営判断に必要な情報の品質を守る仕事」と捉える、問い合わせ対応を「顧客が安心してサービスを使うための入口」と捉えるといった変化です。ただし、つらい状況を前向きに考え直すよう強制することではありません。業務量や関係性に問題がある場合は、環境改善と並行して扱います。
| 種類 | 調整する対象 | 企業内での例 |
|---|---|---|
| タスク | 仕事の内容・順序・方法 | 定型作業を効率化し、顧客課題を考える時間を確保する |
| 関係性 | 関わる相手・接点・対話 | 利用部門へ成果の使われ方を聞き、改善に反映する |
| 認知 | 仕事の意味・目的の捉え方 | 自分の作業が顧客や組織へ与える価値を言語化する |
3種類を一度に変える必要はありません。最初は「毎週一つ、仕事の目的を利用者に確認する」「次回の1on1で、自分が増やしたい貢献を上司へ相談する」など、二週間から一か月で試せる行動にします。小さな実践から始めることで、本人も管理職も影響を確認しやすくなります。
キャリア開発は将来を含む全体設計、ジョブ・クラフティングは現在の仕事での実践です
キャリア開発は、本人がどのような経験を積み、能力や役割を広げるかを中長期で考える取り組みです。研修、配置、社内公募、キャリア面談、学び直しなどを含みます。ジョブ・クラフティングは、その中でも現在担当している仕事に本人がどう働きかけるかに焦点を当てます。両者は競合するものではなく、キャリア面談で整理した方向性を日々の仕事で試す接続点になります。
会社や管理職が職務を設計するジョブ・デザインとも違います。ジョブ・デザインは、役割分担、権限、業務プロセス、人員配置などを組織側が整える活動です。ジョブ・クラフティングは、設定された役割の中で従業員が行う調整です。組織側の設計が不合理なまま、本人の工夫だけで解決させてはいけません。
業務改善とも重なる部分がありますが、評価する視点が異なります。業務改善は時間短縮や品質向上が中心になりやすいのに対し、ジョブ・クラフティングでは、その工夫が本人の強み、成長、仕事の意味、周囲との関係にどう影響したかも確認します。効率が上がっても本人の負担や孤立が増えたなら、望ましい変化とは限りません。
| 取り組み | 主な主体 | 主な対象 | ジョブ・クラフティングとの関係 |
|---|---|---|---|
| キャリア開発 | 本人・上司・人事 | 中長期の経験と能力 | 目指す方向を現在の仕事で試す |
| ジョブ・デザイン | 経営・人事・管理職 | 職務、権限、業務構造 | 本人が工夫できる土台を整える |
| 業務改善 | 組織・チーム・本人 | 効率、品質、プロセス | 効率に加えて意味や成長も確認する |
| 配置転換 | 組織・人事 | 所属、役割、経験機会 | 異動を待たず現職で小さく実践する |
企業にとっての意義は、キャリア自律を日々の行動へ接続できることです
キャリア自律研修でWill・Can・Mustを整理しても、職場に戻った後の仕事が何も変わらなければ、研修は自己理解で止まりやすくなります。ジョブ・クラフティングを組み合わせると、「強みを活かすため、誰との接点を増やすか」「関心のあるテーマを、担当業務のどこで小さく試すか」まで具体化できます。
若手社員には、現在の仕事と将来のキャリアが切り離されている感覚を減らす助けになります。管理職候補には、個人の成果だけでなく、後輩支援や業務改善へ役割を広げる機会になります。女性管理職候補や育児・介護との両立期にある社員には、画一的なキャリア像に合わせるのではなく、現在の制約を踏まえて貢献の仕方を考える対話に使えます。
ベテラン社員やミドルシニア層では、過去の経験を抱えたまま同じ仕事を続けるのではなく、知見の継承、若手支援、部門間の調整、専門性の言語化などへ関係性と役割を広げる視点になります。リスキリング対象者には、新しく学んだ知識をどの業務で試すかを決めることで、受講だけで終わることを防ぎます。
JILPTの職業相談に関する文献調査でも、仕事の意味を見いだす工夫としてジョブ・クラフティングが取り上げられ、強みやウェルビーイングとの関係が整理されています。※3 ただし、効果を一律に断定するのではなく、対象者の課題、業務特性、管理職の支援、実践期間を明確にして導入することが必要です。

自由放任、前向き思考の強制、研修だけの実施では機能しません
最も注意したいのは、ジョブ・クラフティングを「好きな仕事だけをしてよい」と伝えることです。法令、安全、情報管理、品質、納期、顧客との約束は守る必要があります。人事と管理職は、変えてはいけない条件、相談して変える条件、本人が工夫できる範囲を具体的に示します。
次に、認知的クラフティングを前向き思考の強制にしないことです。過重労働、人間関係の悪化、役割の矛盾、ハラスメントなどがあるときに、仕事の意味を見つけるよう求めても根本的な解決になりません。業務量の調整、役割の明確化、相談窓口の利用など、組織側の対応を優先します。
本人の工夫によって見えない追加業務が増えることにも注意が必要です。周囲を支援する社員へ相談や調整が集中すると、本人の貢献が評価されないまま負担だけが増える場合があります。新しい役割が継続的に必要なら、正式な担当、権限、時間、評価へ反映します。
研修でアイデアを出して終わる方法も定着しません。職場へ戻ると、日常業務が優先され、試す機会がなくなります。研修中に実践内容を決め、上司と共有し、二週間後や一か月後に振り返る仕組みをあらかじめ設定します。日本生産性本部の研修案内でも、ジョブ・クラフティングは仕事や職場の人間関係へ変化を加える実践として説明されています。※4
人事は、課題特定から小さな実験、振り返りまでを設計します
第一段階は、導入目的を絞ることです。「働きがいを高める」という大きな目的だけでなく、キャリア自律研修後の行動が続かない、若手が仕事の意味を感じにくい、ベテラン社員の経験を活かせていない、リスキリング後に新しい知識を使う仕事がないなど、対象となる場面を特定します。
第二段階は、現在の仕事を棚卸しすることです。参加者は、担当業務、関係者、求められる成果、時間の使い方、負担を感じる場面、手応えを感じる場面を整理します。「増やしたい」「減らしたい」だけでなく、成果や周囲への影響も併記すると、個人の希望と組織の目的を接続しやすくなります。
第三段階は、タスク・関係性・認知の3方向から選択肢を出すことです。自分だけで決めず、同僚、利用部門、顧客、上司から仕事の価値を聞くと、本人が気づいていない貢献が見つかります。アイデアは大きな異動や制度変更ではなく、現在の権限で試せるものと、上司や人事の承認が必要なものに分けます。
第四段階は、実験の条件を決めることです。何を、いつまで、誰と、どの範囲で試し、何を見て続けるかを決めます。たとえば「次の一か月、顧客から多い質問を週一回チームへ共有し、提案資料の改善点を一つ出す」とすると、行動と成果を確認できます。
第五段階は、管理職との合意です。本人が変えたいこと、組織にとっての価値、懸念されるリスク、必要な支援を話します。管理職は、すぐに可否だけを判断せず、目的を保ったまま実現できる小さな方法を一緒に考えます。
第六段階は、実践後の振り返りです。うまくいったかだけでなく、本人の負担、仕事の質、関係者の反応、学んだことを確認します。続ける、調整する、やめるを選び、その理由を記録します。複数の参加者が実践を共有すると、個人の工夫を組織の業務改善へ広げられます。
- 課題を特定する対象者と、職場で変えたい具体的な状態を決めます。
- 仕事を棚卸しするタスク、関係者、意味、負担、手応えを整理します。
- 選択肢をつくる3つのクラフティングから小さな工夫を考えます。
- 裁量範囲を合意する変えてよい範囲、相談事項、守る条件を確認します。
- 期間を決めて試す二週間から一か月程度の観察できる行動にします。
- 振り返って更新する本人、周囲、成果への影響を見て次の行動を決めます。
管理職は、答えを与えるより、工夫できる範囲と問いを提供します
ジョブ・クラフティングを職場で機能させる鍵は管理職です。管理職が「担当外だから変えないでください」と一律に止めれば、本人は提案しなくなります。反対に「好きに変えてください」と任せきると、役割の衝突や負担の偏りが起きます。管理職は、組織目標と守る条件を示したうえで、本人が考えられる余白をつくります。
1on1やキャリア面談では、「今の仕事で手応えを感じるのはどの場面ですか」「負担が大きいが価値を感じにくい仕事は何ですか」「あなたの強みを活かすと、進め方をどう変えられますか」「仕事の価値を知るために誰と話すとよいですか」「次回までに小さく試せることは何ですか」と質問します。
本人の希望がすぐに実現できない場合も、理由を説明して終わりにしません。目的を確認し、別の方法を探します。たとえば顧客訪問へ同行したいという希望に対して、すぐには難しければ、顧客の声を聞く会議への参加、問い合わせ分析、先輩社員へのヒアリングから始められます。
管理職自身にも支援が必要です。裁量を渡す判断、業務負荷の調整、部下ごとのキャリア観を聞く面談、提案を否定せず検討する対話は、経験だけで自然に身につくとは限りません。ジョブ・クラフティング研修を従業員向けだけにせず、上司向けの関わり方研修と組み合わせると、職場実践を支えやすくなります。
効果は、実践行動・仕事の実感・職場への影響を分けて確認します
研修直後の満足度だけでは、ジョブ・クラフティングが起きたか分かりません。まず、参加者が実践する行動を決めたか、上司と共有したか、期間内に試したかを確認します。次に、仕事の意味、強みを活かす感覚、裁量、周囲とのつながり、負担がどう変化したかを本人に聞きます。
職場への影響として、業務の品質、処理時間、顧客や利用部門の反応、提案や改善の件数、チーム内の役割分担、相談の増減を確認します。すべてを数値化する必要はありません。本人の変化と、管理職・関係者から見た変化を組み合わせると、一方向の評価を避けられます。
一時的に仕事が増えたり、関係者との調整が必要になったりすることもあります。短期の効率だけで判断せず、どのような学習や関係が生まれたかを確認します。一方、本人の負担が継続して増える、他の人の業務を圧迫する、安全や品質に問題が出る場合は、実践内容を見直します。
| 確認する層 | 主な指標 | 確認方法 |
|---|---|---|
| 実践行動 | 試した工夫、上司との合意、振り返り | 実践シート・フォロー会 |
| 本人の実感 | 仕事の意味、強み、裁量、負担 | 研修前後・一定期間後の確認 |
| 職場への影響 | 品質、改善、関係者の反応、役割分担 | 管理職・関係者へのヒアリング |
| 組織課題 | 制度や業務構造で妨げている要因 | 人事・管理職によるレビュー |
導入は、全社一斉より、課題が明確な部門や階層から始める方法があります。若手社員のキャリア自律、管理職候補の役割拡張、ベテラン社員の知見継承、リスキリング後の実践など、目的を一つ選びます。得られた事例と運用上の注意を整理してから対象を広げると、自社に合う方法へ調整できます。
よくある質問
ジョブ・クラフティングとは何ですか?
従業員が役割や責任を守りながら、仕事の進め方、周囲との関係、仕事の意味づけを主体的に調整する考え方です。
ジョブ・クラフティングにはどのような種類がありますか?
作業や進め方を調整するタスク・クラフティング、関係者との接点を見直す関係性クラフティング、仕事の捉え方を変える認知的クラフティングがあります。
従業員が自由に仕事を変えてよいという意味ですか?
自由放任ではありません。法令、安全、品質、顧客との約束、組織目標を守り、上司と裁量範囲を合意したうえで小さく試します。
管理職はどのように支援すればよいですか?
変えてよい範囲を示し、本人が感じる負担とやりがいを聞き、試す行動を合意して、結果と学びを1on1で振り返ります。
ジョブ・クラフティング研修の効果はどう測りますか?
満足度だけでなく、実践した工夫、上司との対話、仕事の意味や裁量の実感、業務改善、周囲への影響を研修前後と一定期間後に確認します。




